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漢(をとこ)は兄貴(あたし)に惚れているぜ!

あたし、鏑木瑞穂。花も恥らううら若き乙女。の筈なのに・・・
厳格だったお婆様の遺言ってのがとんでもない話で、「瑞穂は鏑木の経営している男子校(!) に編入しなさい」・・・ですってえええ!?。
従兄弟の御門真利矢兄が、「俺に任せな!」なんて言ってくれるから、私立聖鷹学院の男子寮に入寮することになっちゃった。男装して、男子高校生としての卒業までの9ヶ月を男子寮で過ごせって!?無理無理ぶっちゃけありな~い、!もうイヤ!なんとかして頂戴!

第1話 梅雨空は憂い顔と共に

「・・・はあ、何でこうなっちゃったのかしら・・・」昨日から何度目の溜息だろう。
 ぽっちゃりしたほっぺが、見る者に強烈な印象を残す紅顔の美少年(?)は、そのかわいらしい顔に似合わないほどの陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
「あっはっは、まあそんな暗い顔をしないで行こうぜ。それからな、女言葉になってるぞ!」
真利矢は、バンカラな笑い方をして瑞穂の肩をバンバン叩く。
「もー、真利矢ったら。何でそんなに平気なのさー?」
「ん?だって人ごとだから」
悪魔ちっくな笑いを浮かべる。
「そんなぁ~」
男子寮からの小道から、正門前の大きい通りにさしかかると、いろいろな生徒が真利矢と瑞穂に向かって挨拶をしてくる。もっとも、挨拶されているのは真利矢の方なのだが、瑞穂は軽いパニックになっているので判っていない。
「お、おはようございますっ!」
初々しさからみて初年度生のようだ。緊張しているのが
わかる。

「うぃーっす」真利矢が軽口のように返事をする。
「おはようございますっ!真利矢さん!今日の試合頼みます!」
「おっす!今日もぐっちょんぐっちょんのけっちょんけっちょんにしてほえ面かかせてやらあな」
実はこの真利矢、聖鷹学院ではかなりの有名人なのである。というのも実家が古武道の道場をやっている為、武道全般に秀でている。ほとんどの体育会系クラブの試合に助っ人というか、ほとんど主戦力として参加している。しかも強い。絶対に強い。われらが真利矢。と言われるほど。まさに聖鷹の頼れる兄貴なのだ。
 挨拶を繰り返す内に、真利矢の顔色が曇った。真利矢が見据える先には、薔薇とブランデンブルグ交響曲を背負った、ものすごい金モールがかかった学生服を着た男が立っていた。
「御門君。何度言ったら判るのかね?紳士たるもの粗暴な言葉を使ってはならぬと」
「へっ。貴(たかし)お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅう。ってか?」
「だ・・・誰が貴お坊ちゃまだ!心底、不愉快なやつだな。君は」
「ふん。行こうぜ瑞穂」
真利矢は地獄の底にでも居るような声を出して瑞穂に言った。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ。真利矢~」
ぽてぽてと真利矢の後をついて行こうとすると、貴が瑞穂に声をかけた。
「待ちたまえ。君は誰だ?見かけない顔だな?」
瑞穂はびくっとして振り向いた。
「あの・・・み・・宮小路・・瑞穂です。て・・転入生です。」
「すまない、人に尋ねる前にまず自ら名乗るべきであったな。私は厳島 貴だ。」
軽くウェーブのかかった、栗色の髪。さわやかな笑顔で瑞穂に微笑んだ。
「学生会会長として忠告しておく。あのような馬鹿者とは即刻縁を切った方が君のためだ」
そう言いつつ、ビシュッと効果音がかかる位の切れの良さで真利矢を指さした。
「なんだとう!」
真利矢は烈火のごとく怒った。

「確かに我が校の主戦力なんだろうが、いささかどころか大いに我が校の品格を損なう言動を繰り返すのは、馬鹿者のそしりを受けるに十分な挙動であろう」
「おいおい、対外試合の時にお上品に『きゃー』とか言っててみろ、『あそこはお嬢様学校でいらっしゃるの?わっははは』と嘗められるだけだろうが。そもそも、おまえら学生会が
もっとよその学校に対して、シャキッとしねーのが悪いんじゃねーか」
「ほんっとうに君は、下品だな。君の御門の家名が泣くぞ。まあいい後で先生方にも説諭してもらおう」
貴はくるっと振り返るとスタスタと校舎の中に歩いていった。

「今日から、君たちと一緒に勉強をすることになった宮小路瑞穂君だ。御門の親戚だから、手を出すと怖いぞ」
担任の梶浦 緋紗夫先生が軽口をたたいた。
「了解でーす!」
「さー、いえっさー!」
「らじゃー」
などと口々に返答するクラスメイトたち。
「えぇっとお・・・宮小路です。よろしくお願いしますぅ・・・」
瑞穂はビビリまくっていた。
ライオンを目の前にしたインパラの様な感じだった。
「うおー!かわいいいー。うちにも姫制度があったら姫確実なのになあ。」
「萌えだよ。萌え!」

なにやら、とても難しい専門用語が飛び交っているようで瑞穂の理解を超えていた。

瑞穂は挨拶をすませて、梶浦先生に指定された席に座った。

「やあ、はじめまして・・・かな?僕は十条 紫皇(じゅうじょう しおう)」にっこり笑って話しかけてきたのは瑞穂にとって見覚えのある優しげな人だった。
「あ。もしかして昨日・・・会いませんでしたか?」
瑞穂は尋ねた。

------------
真利矢にいろいろと特訓されていた瑞穂は夕方休憩を取りたいと言って、男子寮から抜け出した。
『~♪』誰かが歌っている。瑞穂はきょろきょろと見回した。その刹那、風がざわついた。
「歌はいいねえ。リリンの生み出した文化の極みだよ。」
「!」
瑞穂は声のした方向に振り向いた。
「君は歌は好きかい?歌は魂を揺さぶるのさ。きっとドリルと同じ漢のロマンなんだろうね」
「・・・・す、すきですけどぉ?」
ザザァッ。風で木立が揺れる。
「XXXX」
男は瑞穂とすれ違いざまに何かをささやいた。だが瑞穂にはそれを聞き取ることは出来なかった。
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「ああ、やっぱり。男子寮のところで会った人だよね。雰囲気が違うんで判らなかったよ。」

1時間目の授業が終わると、真利矢が瑞穂の教室に入ってきた。まっすぐ紫皇と瑞穂の席に
向かってきた。
「やあ、真利矢君。瑞穂くんに用事かい?」
「あ、紫皇さん。ちょっと心配だったので、見に来ました」
「ちょっと耳を貸したまえ」
そう言うと、紫皇は真利矢になにかささやいた。
「え!!何でわかったんですか!」
驚く真利矢。
「うん、僕には不思議な力があってね。でも大丈夫だよ。他の人はまず気がつかないだろうね。ところで、これだけの逸材はめったにないね。例のアレ、行けるんじゃないかな?」
にやりと笑う。
「そう思いますか。紫皇さん。お代官様も悪ですのう。てひひひひ」
「いやいや、そういう越後屋、おぬしこそ」
時代劇の悪役さながらの会話をしたあと、二人は瑞穂の顔を見た。
「決戦は金曜日!ですね。あと正味4日しかないから、昼休みに作戦会議しましょう。紫皇さん」
「にやり」
「・・・二人とも悪人ですか。そうですか・・・・」
瑞穂は呆然とやり取りをみていた。

昼休み。怪しげな裸電球がぶら下がっている準備室に、入りきれないくらいの人物がいた。
「紫皇さん、寮の初年度生も連れてきましたよ」
真利矢は握り飯と食べ食べやってきた。
「紫皇先輩。ご無沙汰しておりますです」
周皇院 奏(すおういん かなで)が真利矢の背後から挨拶をした。「七生●報国」のハチマキがトレードマークの若人だ。
「押忍!紫皇先輩!」
こちらは上岡由佳(かみおか ただよし) 空手部の初年度生。
「えー、こほん。さて本日皆様にお集まりいただいたのは、他でもない。お集まりの皆様はすでに宮小路瑞穂をご存知の方ばかり。そこで・・・・・」
真利矢が演説を始めた。
結局、男たちの悪巧みは昼休み一杯続いた。

「真利矢~、お昼休み、どこ行ってたんだよう~。みんないなく・・ぼしょぼしょ」
5時間目の授業後、やってきた真利矢に瑞穂は泣きついた。後半はぼしょぼしょと口ごもって聞き取れない。
「か・・・かわいい♪」
紫皇は、うれしそうな顔をしてつぶやいた。

その日の夜、寮の食堂。現在4人しか入寮者はいない。
「え?兄貴選挙~!?何それ?」
瑞穂は口に含んだご飯を吹き出しそうになった。
「あ、瑞穂にいさんは、外部から来たばっかりですからね、知らなくて当然でしょうね。聖鷹には、毎年6月に知性・教養・品格が優れている紳士たる人物をみんなで選ぶという行事があるんですよ。今年の有力候補が厳島 貴先輩なんですよ」
由佳が説明をする。
「兄貴選挙で選ばれるとエルダーブラザー(長兄)と呼ばれるようになりますが、みんな親しみを込めて「アニキ」とか「兄貴」とか呼ぶようになります」
奏が後を継ぐ。
「でだ。通常先輩を呼ぶときに「誰々兄さん」とか関西のお笑いタレントみたいな呼び方をするんだが、このエルダーブラザーは、ザ兄貴オブ兄貴sなわけで、まさに『THE兄貴』に相応しい人物と言うわけだ。と言うわけで単に「兄貴」と呼ばれるとエルダーブラザーを指すんだ」
真利矢がさらに継いだ。
「で、わ・・ボクとどういう関係があるの・・・さ?」
瑞穂はきょとんとした目でみんなを見た。
「決まってるじゃないですか、瑞穂にいさんを兄貴候補にするんですから」
由佳が言った。
「☆○▽~♪◇(!!)」
瑞穂は驚きのあまり言葉にならない叫びをあげた。
正気に戻るのにきっかり27秒かかったが、瑞穂は真利矢の手を引っ張って食堂の片隅に来た。
「真…真利矢~。何考えてるのよっ。あたしは女なのよっ!兄貴なんて、なってどうするの!」
他の二人に聞こえないよう小声で叫んだ。女言葉全開だった。

「瑞穂にいさーん。兄さんなら間違いなく兄貴になれますって」
由佳が無責任極まりない台詞を投げかける。
がっくりうなだれる瑞穂には『どうか、厳島 貴が選ばれますように』とお星様に祈るしか道は残されていなかった。

さて、瑞穂の知らないところで暗躍を続ける、悪巧み集団。根回し工作もバリバリと行い、前日の校内トトカルチョブックメーカーの発表ではなんと厳島 貴に対して50-50というオッズにまでなっていた。

「あ…ありえないから。ありえないんだってば~」
瑞穂は呆然としつづけていた。

『全校生徒の皆さん。各クラスに配布された投票用紙に候補者の名前を書いて近くの投票箱に投票してください。この投票は15時を持って締め切ります。開票は即時行われますので投票の済んだ生徒から講堂に集合してください。繰り返します・・・・』
投票日当日、学内に投票のアナウンスが響き渡る。

15時の締め切りが過ぎる頃、ほとんどの生徒が講堂に集合していた。笑ってしまうことに、掛け率は90-10で宮小路瑞穂の圧勝状態だった。
「みんな大穴にかけてるんだ。きっと…」
瑞穂は自分に言い聞かせるように言った。順当に本命が当選してくれれば問題ないのにと思った。

『第72回聖鷹エルダーブラザー選挙の結果を発表いたします!、有効投票数1626で、得票率が90%を超えた候補者が居たため、今回の投票で決定になります。エルダーブラザーは3年A組の宮小路瑞穂君です。では、宮小路瑞穂君前に出て就任の挨拶をお願いします』

「な、なんだってぇ~!!」
もうこれ以上無いと言うような、驚きの表情を見せるが、みんなに「ほら、行ってこい!」と押し出されてしまう。

「……み……宮小路 み…瑞穂です…」
それだけ言うのが精一杯だった。
「うぉおおおおお!兄貴~アニキー!」
講堂が揺れた。

かくて、前代未聞の兄貴(おにいさま)が爆誕したのであった。

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