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びゅりほでぃず(ブログ版) (5)

「おいっ。君、大丈夫かい?え… お前瑞穂… 鏑木瑞穂か?」

 瑞穂を助けた男の子は菅野 拓美。開正中等部からの瑞穂の親友だった男だ。お互い女っぽい名前だということで息投合したが、拓美は名前に似合わず漢らしい好青年であった。現に今でも、見知らぬ女の子(と思っていた)瑞穂を助けようとしたほどだ。
 今の瑞穂の胸には接着剤でしっかりとニセ胸が付いているので、ボタンが引きちぎられブラジャーがずり上げられた胸元には、かわいらしい乳首がついた双丘が露出していた。その状況に気が付くと、ニセ胸を付けているのをよりにもよって親友に見られたという恥ずかしさから顔を真っ赤にして胸を隠したのであるが、拓美は女性的な羞恥心から胸を隠したと勘違いした。ベットの上でぺたんと女の子座りしていたので、説得力も出ようというものだ。

「ええっ!お前、女だったのか!?」

 思わず叫んでしまったが、あわてて瑞穂を気遣った。

「ご…ごめん。見るつもりじゃ無かったんだ。ほらっ、これでも羽織りな」

 そういうと自分の着ていたジャケットを瑞穂に羽織らせた。

「すまん。もっと早く来てあげられたらよかったんだが」

 そう謝ると、瑞穂を安心させる為にぎゅっとジャケットの上から抱きしめると、安心感からか瑞穂は声高に泣き出した。

「拓美ぃ。うっうっうっ」
「大丈夫。警察は来ないから。安心しな」

 瑞穂が落ち着くまで拓美は瑞穂をしっかりと抱きしめていた。

 状態が状態なので、どこか休憩できる場所ということでビジネスホテルに入った。瑞穂の顔が真っ青だったので『気分が悪いらしいので休ませて貰いたい』と頼んでもすんなり受け入れられた。
「大丈夫ですか?」とホテルの支配人に心配されたが、何かあったら女性従業員を呼ばせて貰うということで部屋に入った。
 部屋にはいると、瑞穂は口に吐き出された汚物をゆすぎ落とした。いくら口をゆすいでも嫌な感覚は落ちなかった。

「そうか、爺さんの遺言で女の格好してるのか。ビックリしたよ。本当の女になっちまったのかと思ってさ」
「たぶん普通にみたら、女の子だと思うよね。メイクまでしてるから」
「昔から瑞穂は、女顔だとか言われてへこんでいたよな。まあ母親の遺言だっけ?髪を切るなっていうもんだから、ますます女っぽく見えてなー」
「おまけに名前が『みずほ』と来た日には…だったよね」
「まあ、女っぽい名前のやつは継巳(つぐみ)とか和己(かずみ)とか少なくはなかったけど、おまえは外見もなんだその、女っぽかったから大変だったよな」
「うん、そうだ。聞いてよ。恵泉女学院にはエルダーシスターっていう制度があるのよね」
「エルダーシスターって、たしか学園ナンバーワンの女性を学校中で選挙して決めるってやつだっけ」
「よく知ってるわね。理事長の孫の僕が知らなかったのに」

 久しぶりの親友との会話で瑞穂の一人称が「わたし」から「僕」に戻っていた。

「まあな。それより瑞穂。しゃべり方がえらく女っぽくなってねーか?」
「んー、そのエルダーシスターに僕が選ばれちゃったの」
「ひえー。女の中の女が男なのか。すげー世の中だな」
「最近じゃ、ロシアのミスコンの優勝者が男性だったとか平気であるから。もう驚くのは止めにしちゃった」
「ふーん、しっかし、見かけも女っぽいし声もしぐさも完全に女性っぽい。その上しゃべり方まで女性っぽくなって、お前の性別知っててもにわかに信じられないな」
「学院内で『お姉さま』と呼ばれて、一応憧憬の対象とされちゃってるので、ボロが出ないようにするの大変」

 瑞穂は、襲われたショックから立ち直って落ち着いたのかそれとも親友に自分の秘密を打ち明けられてほっとしたのか判らないが、いつもより饒舌であった。

「ボロ?」
「ええ、最初の頃はお手洗いに行くだけでも大変。つい便座をあげて用を足しそうになってしまうし、音姫使わずに用を足してしまったり」
「何だい?その音姫ってのは?」
「あ、知らない?女性は小用の音を聞かれるのが恥ずかしいから、用をたす時に水を流すのだけど、水がもったいないからって音だけ流す機械があって、女子便所には標準装備になってる」
「ふーん、大変なんだな」
「やっぱり、ほら。女性には幻想ってものを持ってたわけじゃない。それがどんどん打ち壊されて、カルチャーショックで大変だったのに女性の規範である『お姉さま』に担ぎ上げられちゃって…」
「なあ、瑞穂。俺でよかったらさ。お前の気分転換につきあうぜ。それに男連れに見える方が、危険な目にも遭わなくてすむしな」
「そうだよね。護身術習ってたはずなのに、全然役に立たなかったし…」
「そうそう、何時ならあいてる?」
「うーん、土曜日ならお昼ちょっと前から大丈夫」
「じゃあ土曜日に、場所は…こっちより恵泉女学院もよりの駅の方が安心だな」
「うん。うれしいよ」
「落ち着いたところで、送ろうか」

 そう言ったところで拓美は瑞穂の胸の部分を見た。暴漢にブラウスが引きちぎられたままで、このまま女子寮に帰ると悪目立ちすることになる。

「あ…これじゃ、まずいな。そのままジャケット貸すのも目立つな。よし、ちょっと汗臭いかもしれないけど、これ羽織ってくれ」

 そういうと拓美は、瑞穂に自分の体育ジャージの上着を羽織らせ、恵泉女学院まで送ってくれた。寮に入ると、各人夕食前の支度をしているようで玄関ロビーにも誰も居なかったので、そっと自分の部屋に戻ると急いでワンピースに着替えた。拓美にジャージを返すから待ってて欲しいと頼んだが、女子寮前に男が居て噂になるのもそれはそれでまずかろうと気を遣ってくれた。

 夕食をすませると、TVを見ている他の3人を食堂に残し、自室に戻って洗濯用のエプロンを着けランドリーに向かった。拓美のジャージを綺麗に洗濯して返すためだ。恵泉女子寮も基本は自分で洗濯をする。洗濯機の洗濯物を見つめながら、今日の出来事を思い出していた。もちろん暴行された嫌な部分ではなく、白馬の王子のように現れた親友との楽しい時間の方だ。
  温風乾燥機までかけると、ジャージを丁寧に折りたたんで部屋に持ち帰った。そのまま返すのも気まずいかと思い綺麗にラッピングして紙袋に入れた。ぼーっとベッドの上で座っていると「とぅるるるるる」と携帯電話がなった。

「はい、宮小路です。あ…瑞穂です」

 電話の相手は拓美だった。拓美には宮小路の名前は教えてなかったのであわてて「瑞穂」を名乗った。

「うん、もう落ち着いた。大丈夫。ほんと。心配かけてごめん」

 拓美は優しい声で瑞穂の容態を気遣った。開正時代の記憶では拓美という人間は他人に対して最大限に気配りが出来る人物だった。その優しさに触れながら、話をしているうちに何故か目から涙があふれだしてしまう。

『おい。瑞穂!どうした?大丈夫か?』
「ご、ごめん。どうしてかな、涙が止まらない」

 自分の感情を抑えられないのは初めてだ。携帯電話を握りしめながら瑞穂は体育座りの格好のまましばらく泣いた。拓美は瑞穂が泣くのをやめるまで、携帯電話の向こうでじっと待っていた。

「ごめん、拓美。もう平気」
『そうか。また土曜日にゆっくり話そうな』

 そういうと、電話を切った。電話越しであるが、他人と繋がっているという思いがこれほど力強く思えたことは瑞穂にはなかった。

(つづく)

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