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びゅりほでぃず(ブログ版) (1)

「おはようございます。お姉さま」

「おはようございます」

「ごきげんよう。お姉さま」

「ごきげんよう」

 爽やかな朝の挨拶が飛び交うこの乙女の園は、恵泉女学院。明治19年に設立された華族のお嬢さまを預かる学習院と並ぶ由緒ある学校である。華族と言う制度が無くなって久しい現在でも、元華族や皇族に連なるやんごとなきお姫さま、もといお嬢さま方が通っている。

 頻繁に挨拶されている生徒は、宮小路瑞穂。全校生徒の憧憬を一身に集めた第72代エルダーである。

 憧憬を集めると言う事は、裏を返せば衆目を集めていると言う事でもあるわけで、瑞穂自身は己が性別が男性であると言う秘密を守るためにいやがおうにも、理想の女性として振る舞わねばならなかった。その慎重さゆえにさらに優雅な物腰ととられ憧憬の度合いが強まっていくと言う、憧憬のスパイラル状態になっている。

 だが、瑞穂が女ではない。という秘密を知るものは学院の中にはわずか5名しかいなかった。そう、瑞穂は学院内においては、完全に女性と認識されているのだった。

 お昼時の食堂の一角。瑞穂の入っている女子寮のフルメンバー4人と十条紫苑の計5人がかたまって昼食をとっていた。

「ね。瑞穂ちゃん。今日、買い物にいかない?」

 まりやが瑞穂に声をかける。

「ん?いいわよ。でも何買いに行くの?」

「んふー」

 まりやは紫苑と顔を見合わせて意味深な微笑みをした。

こう言う時は嫌な予感がするのですけれど。と瑞穂は思ったが、口にはしなかった。

「あんまり瑞穂さんを困らせるのも何ですわね。実は隣町の駅ビルが新しくなったので行ってみませんか?ということなのです。」

 隣町の駅ビルは一昨日改装が終わって、昨日からすごい行列が出来てたと朝のニュース番組でやっていた。

女性向けのファッションビルと男性向けのファッションビル、あとはマニア向けな専門店が入っていると言う事で原宿・新宿と池袋・秋葉原を足したような処らしい。

「ええ、わたしはかまいませんよ」

 そう瑞穂が答えると、紫苑はうれしそうにして瑞穂の手を握った。以前の瑞穂ならドキドキしていたのだが、さすがに女子特有の過剰ともいえるスキンシップ、と言うかボディタッチコミュニケーションにも慣れてきたので、むやみやたらとドギマギすることは無くなってきた。丁度そこで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

「では、まりやさん。放課後にこちらに集まってからまいりましょう」

 紫苑がまりやに提案する。珍しい事にいつもよりもかなり積極的である。

「由佳里、奏ちゃんもいいわね。では、紫苑さま瑞穂ちゃん放課後にね」

 まりやはそう言うと、るんたったと口ずさみながら自分の教室に戻っていった。

 放課後、3年A組の教室に集まると一同は駅に向かった。駅までは徒歩で15分ほどの距離だ。

「ですからぁ、私には似合わないですってばぁ」

「まあまあ、まりや。そんなに由佳里ちゃんをからかっていてはダメじゃない」

 端から見ると女子高生5人組がはしゃいでいるようにしか見えない。

「おー。恵泉はお嬢様学校で美人ぞろいだよなぁ」

「うわっ、美人な上に背高けぇなあ。俺ら見劣りしちまうぜ」

「お、俺はあの亜麻色の髪の毛の背の高い娘がいいなあ。彼女になってくれないかな」

「もう一人の背の高い娘はどうだ?」

「乳がでけえんで魅力だけど、やっぱりもう一人の背の高い娘の方がいいかなー」

「俺はあのちっこい娘だな」

「お前、ロリコンか?やべえよ」

 近づく勇気のない連中は、遠巻きに見ながら瑞穂たちの品定めをしている。その一方で、当の話題の主たちはと言うと。

「お姉さまの好みの男性のタイプってどんな方なのです?」

 由佳里が瑞穂に問いかける。お年頃であれば男も女も人数寄らば異性の話に華が咲こうというものである。

「あら、由佳里ちゃんは?」

 瑞穂はうまく質問をかわした。

「そうですねえ。憧れるだけなら青年隊のガッシーですけど、お付き合いするなら、誠実な人です」

「紫苑お姉さまは、どんな方がお好みなのですか?」

 奏が、紫苑に話題を振った。

「わたくしは奏ちゃんみたいな可愛らしい方が…」

 ぎゅううううっ。紫苑は目の前を歩いている奏を抱きしめた。

「はやや~。紫苑お姉さま。奏は異性の方では無いのですよ?」

「紫苑さんの、かわいいもの好きはもはや筋金入りですよね」

「ところでさ、瑞穂ちゃんの好みのタイプは?」

 まりやがわかってて問いかける。

「わ…わたしぃ?そ…そうね。…父様みたいな人…かな」

 瑞穂は父親を敬愛しているので、ある意味これはうそではない。瑞穂自身は男であるため父親が好みの異性のタイプというわけではなくて、あくまで父親のような男性になりたい。と思っているわけなのだが。

「ふっふーん、そういえば小父様は小母様一途でメロメロだったのよねえ。そういう甘々な人が好みなんだぁ。にっひっひ」

「そういう、まりやこそ、どういう人が好みなの?」

「あたしはねぇ、べったりになったり束縛しない人!」

「うふふ、小父様や小母様が聞いたら泣いて悲しむわよ~」

「いいのいいの。あの人たちみたいに溺愛されても困るもの」

 古人曰く。月は遠くから愛でるもの。乙女たちの会話の内容を聞いたら百年の恋もいっぺんに醒めるかもしれない。

38万キロの彼方に優雅に輝く月も、実際は荒涼とした死の世界である。月のお姫様が嘆くわけだ。

(つづく)

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